糖尿病網膜症について

糖尿病とは

糖尿病網膜症について説明をする前に、まず糖尿病網膜症の説明の前に糖尿病について簡単に説明します。糖尿病の患者さんの人数は日本で320万人と推計されています。糖尿病の症状ですが、早期の段階では殆ど症状はなく、悪化すると喉の渇きや頻尿や疲労感などが生じることが知られており、目(糖尿病網膜症)、腎臓(糖尿病腎症)、神経(糖尿病神経障害)など様々な場所にも合併症を引き起こします。
では本題の糖尿病網膜症ですが、日本での失明原因の第3位(2017年までは第2位)となっています。なぜこれほど失明原因の上位になっているのかと言いますと、幾つか要因が考えられますが、糖尿病網膜症は進行するまで症状が出ないことが一つの要因として知られています。糖尿病網膜症は症状の悪化に応じて名称がつけられています。

糖尿病網膜症の分類

糖尿病網膜症がない状態(NDR:no diabetic retinopathy)、単純糖尿病網膜症(SDR:simple diabetic retinopathy)、前増殖糖尿病網膜症(PPDR:pre- proliferative diabetic retinopathy)、増殖糖尿病網膜症(PDR:proliferative diabetic retinopathy)の4つの段階に分けられています。
NDR→SDR→PPDR→PDRの順番で悪くなりますが、一番悪い状態の増殖糖尿病網膜症の状態で初めて自分が糖尿病網膜症であると気が付かれる方が多いのが現実です。では、それぞれの状態がどのような状態になっているのか目の奥の写真(眼底写真)を用いて説明します。

上記の写真をご覧になってください。
真ん中の写真では赤丸部分に非常に小さな出血が複数個あります。また、下方(緑丸)には輪郭のはっきとした白色の物質(硬性白斑)を認めております。この写真の様に糖尿病による網膜症で、小さな出血を認めている状態を単純糖尿病網膜症と言います。一般的にこの状態では自分自身で、糖尿病網膜症があることに気が付くことは殆どありません。

次に右端の写真を見てもらうと、単純糖尿病網膜症より広範で多数の出血が認められ、輪郭がぼんやりとした形状の白色の物質(軟性白斑)を認めております。この状態を前増殖糖尿病網膜症と言いますが、これだけ広範な出血が生じていても、自覚症状がないことがよくあります。

では一番状態の悪い増殖糖尿病網膜症についてですが、上の写真を見ての通りですが、眼底が分からないぐらいの大出血(硝子体出血)をしているのが分かります。この状態になって初めて眼科に受診されることが多く、手術を行っても視力が大幅に低下してしまうことが多いのが現状です。では何故この様な出血をするのでしょうか?実は糖尿病になると血流障害が生じるために、網膜に酸素(栄養)が行き届かなくなります。酸素の供給は血液のヘモグロビンから取り入れる為に酸素不足に陥った網膜は血管を増殖させます。これを専門用語で新生血管と言います。この新生血管という血管が脆弱で眼内に出血や更には網膜浮腫(黄斑浮腫)を引き起こす原因となります。

増殖糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の治療

では次に糖尿病網膜症の治療について説明をします。まず、NDR(糖尿病網膜症無し)の状態では眼底に異常がないので治療の必要性はありません。半年から1年間隔で定期的な診察を行えば問題ないと思われます。続いてSDR(単純糖尿病網膜症)の状態です。この状態になると先程の説明の繰り返しになりますが、網膜に点状の小さな出血を認めるだけのことが多いので通常は治療の対象になることはありません。しかし、一部の方は網膜浮腫(黄斑浮腫)を生じることがあります。(下図参照)

網膜断層像

上記写真の右側の写真のように網膜に浮腫が生じた場合は、視力低下や変視(歪んで見えること)の原因となったりしますので、抗VEGF製剤という薬を眼球に注射します。抗VEGF製剤は網膜の新生血管の抑制作用や、網膜浮腫(黄斑浮腫)を軽快する作用があります。次にPPDR(前増殖糖尿病網膜症)の状態です。この状態になると網膜に新生血管が生じる手前の段階となります。そこで、新生血管が生じないように網膜にレーザーを照射します。(網膜光凝固術)照射された網膜には新生血管が生じることがないので、網膜全体に照射を行うことが多いです。更に、網膜浮腫が生じている場合には前述に説明したように抗VEGF製剤の注射を行うことになります。では、最後PDR(増殖糖尿病網膜症)の状態です。この状態になると、前述に説明した網膜光凝固術、抗VEGF製剤の治療に加え、硝子体手術を行う場合があります。しかしこの増殖糖尿病網膜症の状態になっていると網膜が長期に渡って痛んでおり、手術を行っても視力が出ないこともよくあります。以下に今迄の説明を簡略した表を載せておきます。

糖尿病網膜症の状態と治療

抗VEGF製剤、網膜光凝固術とは

次に抗VEGF製剤と網膜光凝固術について説明をします。視力低下の元となる黄斑浮腫は網膜下におこる新生血管の増殖、成長や、網膜内の毛細血管から漏れ出す血液成分によって引き起こされます。そして、その原因となる物質がVEGF(Vascular endothelial growth factor:血管内皮増殖因子)と言われています。抗VEGF薬治療は、このVEGFの働きを抑える薬剤を眼内の硝子体と言う場所に注射することで、新生血管や血管成分の漏れを抑制する新しい治療法です。新薬の治療で、1回の治療費が3割負担で概ね5万円程必要になります。注意点として硝子体内に注射を行うことから、眼内に細菌感染を引き起こす事が約2000人に1人の割合で生じる事が知られていますので、必ず注射翌日には診察が必要となります。また、この注射を行うことによって非常に低いですが、血管の梗塞を引き起こす可能性が示唆されております。心筋梗塞や脳梗塞の既往がある患者さんには注意が必要となりますので、心筋梗塞、脳梗塞の既往歴のある患者さんは必ず主治医に相談しましょう。

次に網膜光凝固術ですが、写真のように網膜にレーザーを当てる治療です。写真で丸いスポットが無数に認められておりますが、この丸い無数のスポットがレーザー治療を当てた跡です。レーザー治療をした場所は新生血管が生じにくいことが知られております。費用は概ね3割負担で5万円程必要になります。注意点としては、レーザーを照射後に一過性の飛蚊症(蚊が無数に飛んでいるように見えたり)や炎症が強く出ることがあります。術後しばらくの間は定期的な受診が必要になります。以上が糖尿病網膜症についての説明です。糖尿病の方は必ず、眼科を出来るだけ早く受診するようにしましょう。

よくあるご質問とその回答

Q1 現在糖尿病でHbA1cは10%でNDRの状態ですが、今後注意する点はありますか。
A1 食事運動療法を行い血糖値の改善をすることが大切です。しかし、眼科としての注意点は血糖値を急激に下げ過ぎないことです。毎月HbA1cを1%以内の改善を目標にしてもらう方が良いです。

Q2 SDRの状態ではレーザーを行わないのはどうしてですか?
A2 SDRの状態だと血糖が良ければNDRの状態に改善することがあるので、通常レーザー治療は行いません。PPDRまで悪化すると、元に戻ることはないのでレーザー治療となります。

Q3 抗VEGF製剤はどのぐらいの作用期間で、繰り返し打たなければならないのでしょうか?
A3 一般的に抗VEGF製剤の効果は1~2カ月と言われています。1回の注射で浮腫が完全になくなり再発しなければ問題ないのですが、実際のところ1回で完治される患者さんは少ないです。通常は複数回注射の投与が必要ですが、個人個人によって異なります。

Q4 現在HbA1c6%台で内科的には数字は良いのですが、眼科ではPPDRと言われ目の状態として良くないと言われました。血糖値もHbA1cの値も良いのにどうしてでしょうか?
A4 糖尿病網膜症は一般的に長期間の経過を得て生じるものです。ですので、今現在血糖値が良くても過去に血糖値やHbA1cが悪い数字が数か月以上続いていたなら、糖尿病網膜症が生じても不思議ではないです。